LOGIN残り二ヶ月になった週に、嵐が来た。
冬の嵐は、ルシェムでは珍しくないとグレンが言っていた。でも、今年の嵐は少し大きかった。 二日間、風が止まらなかった。 街道が荒れて、荷馬車が出せなくなった。ヴァロウへの荷物が二日止まった。トレネへの荷物も止まった。 ただし、今回は去年の春とは違った。 ルナが秋から増やしていた在庫が、各町に届いていた。マグダが「多めに頼んでいた分がある」と使いを送ってきた。シェナは「手持ちの在庫で一週間は大丈夫」と返事をくれた。 嵐が止んだ翌朝、エリナは作業場で在庫の確認をしながら、去年の春の流通停止と今回を比べた。 去年の春は、一日で対応策を考えて、迂回路を探して、グレンとマリオに走ってもらった。 今回は、対応策がすでにあった。 在庫があった。連絡網があった。ベルトが迂回路を知っていた。シェナが現地で対応できた。 嵐は同じでも、商会は変わっていた。フィオナから手紙が届いた。
エリナへ
そちらは嵐だったと聞いた。こちらも風が強かった。王都は石造りだから、建物への影響は少ないけど、道が荒れた。 一つ、大事な情報がある。 クロヴェルが、新しい手を打ってきた。 魔法省が、「民間の衛生用品に関する品質基準」を新たに設ける動きを始めた。石鹸と薬草薬が、その対象になる見込みだ。 品質基準自体は、一見すると正当な話だ。消費者を守るための基準、という名目になる。でも、その基準を設定するのが魔法省になれば、許可の発行権を魔法省が持つことになる。先月の規制案と、本質的には同じ手だ。 ただし、今回は「消費者を守る」という名目がある分、反論しにくい。「消費者保護に反対するのか」という論理が使われる。 対策を考えている。一つ思いついたことがある。あなたに確認したい。 アッシュフォード商会が、自ら品質基準を作って公開することはできますか。魔法省が基準を作る前に、商会側が先に「これが私たちの基準です」と示してしまう。先手を取る形だ。 ゴードンさんに相談してほしい。 ――フィオナ――エリナはフィオナの手紙を読んで、すぐにゴードンを呼んだ。
「フィオナから新しい情報が来た」 ゴードンに手紙を見せた。 ゴードンが読んで、少し間を置いてから言った。 「フィオナさんの案は、正しいと思います」 「先に基準を作って公開する、ということですか」 「そうです。ただし、作るだけでは不十分です」 「どういう意味ですか?」 「商会が独自に基準を作っても、それが信頼されなければ意味がない。基準の信頼性を担保する何かが必要です」 「例えば?」 「学院です。学院が、私たちの品質基準を確認した、という形にできれば、魔法省は『学院が認めたものをなぜ規制するのか』という矛盾を抱えることになります」 「学院が確認した基準を、商会が公開している。それに対して魔法省が独自の基準を作れば、学院と魔法省が対立する形になる」 「そうです。クロヴェルは学院の一部に影響力を持っていますが、学院全体を動かすことはできない。師匠と魔法師団長が動いてくれているなら、学院としての立場は取れます」 「レインに、今日中に連絡を入れます」エリナはその場で手紙を書いた。
レインへ 緊急。 魔法省が、民間の衛生用品に品質基準を設ける動きを始めた。石鹸と薬草薬が対象になる見込み。名目は消費者保護。 対策として、アッシュフォード商会が先に独自の品質基準を作って公開することを考えている。ただし、その基準を学院が確認した、という形にできれば、魔法省の動きを牽制できると考えている。 師匠と相談してほしい。学院として、商会の品質基準を確認した旨を文書化することは可能か。 急ぎます。 ――エリナ―― 速達で送った。次に、エリナは品質基準の草案を書き始めた。
石鹸の成分と製造工程。薬草薬の配合比率と保存方法。消毒液の濃度と使用方法。それぞれについて、自分たちが実際にやってきた手順を、言語化した。 前世のエンジニアとしての経験が、ここで役立った。 仕様書を書くのは、慣れた作業だった。 使う材料、製造の手順、品質の確認方法、保存条件。それを箇条書きで整理して、ゴードンに確認してもらいながら、一日かけて草案を作った。 ルナに薬草薬の部分を確認してもらった。 「ここ、違う」 「どこが?」 「乾燥の時間。季節によって変わる。冬は長くする」 「具体的にどのくらいですか?」 「夏なら三日、冬なら五日。湿度によっても変わる」 「それを、書き加えますか?」 「書いた方がいい。そっちの方が正確だ」 ルナが書き直してくれた。 シェナにも確認のための手紙を送った。トレネで採取している薬草の種類と、品質の見分け方を教えてほしいと書いた。翌日の夕方、レインから速達の返事が来た。
エリナへ
師匠に相談した。師匠は「それをやろう」と即答した。 学院として、アッシュフォード商会の品質基準を確認した文書を作ることができる。形式は「学院医療棟の使用実績に基づく品質確認書」とする。師匠が署名する。魔法師団長にも副署をもらえるよう、今交渉中だ。 魔法師団長の副署があれば、それは学院としての公式文書になる。魔法省がその文書を無効にするには、学院と正面からぶつかる必要がある。 品質基準の草案が仕上がり次第、送ってくれ。確認する。 それから、一つだけ。 残り二ヶ月で、こういう形で動けていることを、少し誇らしく思っている。おかしいか? ――レイン――エリナは最後の一行を読んで、少しだけ止まった。
誇らしく思っている。 おかしいか。 おかしくない。 エリナは返事を書こうとして、まず品質基準の草案の仕上げを優先した。 感情の話は、作業の後でいい。 でも、「おかしくない」と伝えたかった。草案が仕上がったのは、その夜の遅くだった。
ゴードンとルナとシェナの意見を全部反映した、六ページの文書ができた。 マリオに確認してもらうと、「読みにくい部分がある」と言われた。 「どこですか?」 「ここ。専門的な言葉が多すぎる。普通の人が読んでもわからない」 「でも、専門的な内容だから、専門的な言葉が必要です」 「二種類作れないか?」エリナが少し考えた。
「詳しい人向けの版と、一般の人向けの版を」
「俺でも読める版を作るってこと?」 「マリオが読めれば、市場の人も読める。一般向けの版は、商会が市場で配る時に使う」 「それは、俺でも貢献できるな」 「貢献してください」 マリオが嬉しそうに、一般向けの版の草案を書き始めた。 字が上手くないが、内容がわかりやすかった。翌朝、品質基準の草案と、マリオが書いた一般向けの版を、レインに送った。
手紙に、一行付け加えた。 「『誇らしく思っている。おかしいか?』という問いに答える。おかしくない。私も、同じことを感じている」三日後、レインと師匠からの返事が来た。
草案への細かい確認事項が数点あったが、大きな修正はなかった。 師匠のコメントが、一行だけついていた。 「この文書は、よく書けている。誰が書いたか、わかる気がする」 エリナはそのコメントを読んで、少しだけ止まった。 誰が書いたか、わかる気がする。 師匠は、エリナとは一度も会っていない。でも、手紙やデータを通じて、間接的に知っている。 そしてこの文書を読んで、「わかる気がする」と言った。 それが、少しだけ嬉しかった。品質基準の最終版が仕上がったのは、手紙のやり取りを数回重ねてから、一週間後だった。
学院の確認書の準備も、並行して進んでいた。 魔法師団長の副署については、まだ交渉中だとレインは書いていたが、師匠は「おそらく大丈夫だ」と言っているとのことだった。 フィオナに進捗を報告すると、すぐに返事が来た。やった。
これで、魔法省が品質基準を作っても、『学院が確認した基準がすでにある』という状況になる。魔法省は学院の基準を無視できない。無視すれば、学院と対立する。 クロヴェルの手が、また一手止まった。 あと二ヶ月弱。最後の山が来ると思う。でも、今日の分は今日喜んでいい。 ――フィオナ――エリナはフィオナの手紙を読んで、『今日の分は今日喜んでいい』という一行を少しだけ見た。
以前、マリオも同じことを言った。 今日の分は、今日喜べばいい。 エリナは少しだけ、その言葉を受け取ることにした。 喜ぶ、というのが自分に向いていることなのかどうか、まだよくわからない。 でも、今日は少しだけ、良かったと思うことにした。夜、エリナはレインへの手紙を書いた。
レインへ 品質基準と学院確認書の準備が進んでいる。フィオナが喜んでいた。 師匠が「誰が書いたかわかる気がする」と言ってくれた。一度も会っていないのに、文書から伝わるものがあったらしい。それが、少し嬉しかった。 残り二ヶ月を切ろうとしている。最後の山が来ると、フィオナが書いていた。 一つだけ、聞いていいですか? 一年後の約束の話。その日の夜に、ゆっくり話がしたいと言った。数字と結果ではなく、一年間に何を考えていたかを。 覚えていますか? ――エリナ―― 書いて、封をした。 『覚えていますか?』という問いを、書こうと決めたのは今夜だった。 残り二ヶ月を切ろうとしている。 一年後の約束が、近づいてきた。 覚えているかどうかを、聞きたかった。 それだけではないかもしれない。 でも、今夜は『それだけではないかもしれない』を言葉にするのをやめた。 まず、聞いてみる。 返事を待つ。 それで十分だ。 ランプを吹き消した。 エリナ・アッシュフォード、八歳。 嵐が来た。でも、商会は変わっていた。 クロヴェルの新しい手が来た。でも、先手を取れた。 残り二ヶ月を切った。 今夜は、少しだけ良かった。 それで十分だ。フィオナがルシェムに来たのは、謁見から二週間後のことだった。 予告なしだった。 朝、市場から戻ったマリオが、息を切らして事務室に飛び込んできた。 「フィオナさんが来た」「どこに?」「市場の入り口。馬車で来てる。荷物が多い」「荷物が多い?」「トランクが二つある」 エリナは少しだけ止まった。 「泊まりではなく、しばらくいるつもりですか」「そういうことじゃないか? 迎えに行くか?」「行きます」 市場の入り口に着くと、フィオナが馬車の横に立っていた。 久しぶりに、ルシェムで見るフィオナだった。 王都で会った時とは少し違って見えた。服装は変わらないが、顔が少し違う。 疲れている、と手紙に書いていた。 確かに、少し疲れた顔をしていた。 でも、エリナを見た瞬間、目が変わった。 「来た」「来ましたね、予告なしで」「予告したら、準備されすぎると思って。あなたのことだから、部屋を完璧に整えて、食事まで用意して待っていそうだから」「そうしようとしていました」「でしょう。だから、言わなかった」「荷物が多いですね」「しばらくいようと思って」 フィオナが少しだけ声を落とした。「王都からの仕事は、手紙でできる部分も多い。しばらくルシェムで動きながら、こちらの空気も吸いたかった」「どのくらい?」「一週間か、二週間か。決めていない」「決めなくていいです。いたいだけいてください」 マリオが荷物を運んでくれた。 フィオナが見ると、少し驚いた顔をした。 「マリオ、大きくなった?」「なってないと思うけど、フィオナさんが久しぶりに会うから大きく見えるだけじゃないか?」「そうかもしれない。でも、なんか違う。顔が違う」「どう違う?」「前より、落ち着いた顔をしてる」「そうかな」
翌日から、エリナは動き始めた。 といっても、急いでいるわけではなかった。 落ち着いて、一つずつ。 謁見の翌日以降に何をするかは、帰り道の馬車の中でゴードンと話し合っていた。 優先順位は決まっていた。 一つ目、商会の代表変更の正式書類を処理する。二つ目、各町の現場責任者に謁見の結果を報告する。三つ目、フィオナと連携して規制案の継続審議への対応を続ける。四つ目、学院の衛生教育の検討に、商会として協力できることを提示する。 どれも、急ぎではない。 でも、止まってもいない。 まず、商会の代表変更の書類が届いた。 アルバ殿下が約束した通り、一週間以内に書状が来た。 正式な書類に、エリナ・アッシュフォードの名前が入っていた。 アッシュフォード商会の代表者、エリナ・アッシュフォード。 ゴードンがその書類を机の上に置いた。 「これで、正式になりました」「そうですね」「どういう気持ちですか?」 エリナは少しだけ考えた。 「思っていたより、静かな気持ちです」「静か、とは」「もっと大きな感情が来ると思っていた。でも、静かだった。当たり前のことが、形になった、という感じです」「それが、正しい感覚だと思います」ゴードンが静かに言った。「当たり前のことを積み上げてきたから、当たり前に形になった」「ゴードンさん」「はい」「代表名義をずっと引き受けてくれていた。本当にありがとうございました」「礼はいりません。でも、受け取ります」 それだけだった。 それで十分だった。 次に、各町の現場責任者への報告をした。 マグダ、シェナ、ジルカに、それぞれ手紙を書いた。 謁見の結果。陛下が約束を守ってくれたこと。商会の活動が引き続き認められたこと。今後も続けることができること。 返事は、それぞれ三日以内に来た。 マグダから。 エリナちゃん
ルシェムに帰った翌朝、エリナはいつもより少しだけ遅く起きた。 目が覚めた時、空はすでに明るかった。 珍しいことだった。 いつもは夜明け前に目が覚める。でも今朝は、光が差し込んでから目が開いた。 しばらく、布団の中でそのままいた。 これも珍しいことだった。 起きたら、すぐに動く。それがいつものエリナだった。 でも今朝は、少しだけそのままいた。 窓の外から、ルシェムの朝の音が聞こえた。 市場へ向かう人の足音。遠くで犬が吠える声。風が木の葉を揺らす音。 帰ってきた、と思った。 昨日も思った。でも、今朝も思った。 ここが、自分の場所だ。 台所に行くと、セレーナが先にいた。 「おはよう」「おはようございます」「よく眠れた?」「はい。遅くまで眠っていました」「そう。今日くらいは、いいんじゃない?」「そうかもしれません」 薬草茶を作りながら、エリナは窓の外を見た。 冬の朝の空は、澄んでいた。 「お母さん」「うん」「昨日、ゴードンさんから聞いた話があります」「何?」「学院が、来年から衛生教育を取り入れることを検討しているそうです。石鹸の使い方、薬草薬の知識、傷の手当ての手順を、学院の教育に組み込む話が始まっている」 セレーナが少しだけ手を止めた。 「それって、どういうことになるの」「学院で教えれば、学院の生徒が卒業して各地に行く時に、その知識を持っていく。一人が届けられる場所より、ずっと広い範囲に届く」「あなたが一年でやったことが、もっと広がるということ?」「そうなるかもしれません」「お父さんが聞いたら、何と言うかしら」 エリナは少しだけ考えた。 「『私よりうまくやっている』と言うか、それとも『まだ足りない』と言うか」「この前も同じことを言ったわね」「同じこ
翌朝、エリナは早く起きた。 今日、ルシェムに帰る。 荷物を確認した。報告書の写し。確認書の写し。殿下から預かったアッシュフォード商会の正式な代表変更に関する書状の下書き。そして、セレーナへの手紙。 全部、ある。 朝食を三人で食べた。 フィオナが、珍しく朝から饒舌だった。 「昨夜の話、全部聞かせてもらうって言ったけど」「聞きますか?」「聞く。でも、今は聞かない」「なぜですか?」「あなたの顔を見れば、大体わかるから。今日は、その顔で十分」「どんな顔をしていますか?」 ゴードンが静かに言った。 「昨日フィオナが見たかった顔」 出発前に、フィオナと二人になった。 宿の前の小さな通りで、少しだけ話した。 「フィオナ、これからどうするんですか?」「王都にいる。まだやることがある。規制案はまだ継続審議のままだ。陛下が認めたとはいえ、クロヴェルが諦めたわけじゃない」「そうですね」「でも、今日は違う話をしたい」「どんな話ですか?」「あなたが帰った後のことを、少し考えた。王都に来てからの一年間、私はずっとここで動いていた。でも、いつかルシェムに行ってみたいと思っている」「ルシェムに?」「マリオとルナに、会いたい。あなたが話してくれた人たちに。あなたが動いてきた場所を、見てみたい」「来てください、必ず」「いつ行けるかはわからない。でも、行く」「待っています」 フィオナが少しだけ笑った。 「その言葉、昨夜もレインに言ったでしょう」「言いました」「同じ言葉が、自然に出てくるようになったんだね」フィオナが穏やかに言った。「前のあなたには、なかった言葉だと思う」「そうかもしれません」「いい変化だと思う」 フィオナが手を差し出した。 エリナはその手を両手で握った。
謁見が終わって、王宮を出たのは昼過ぎだった。 アルバ殿下が廊下で待っていた。 「よくやりました、エリナ殿」「ありがとうございます。殿下の準備がなければ、今日はなかった」「王都のデータは、効きましたね」 殿下が少し笑った。「右側の列が、ざわついた」「見えていました」「父上は、満足そうでした。あの顔は、久しぶりに見た。一年前に、『わくわくしている』と言いましたが、今日はそれ以上でしたよ」 エリナは少しだけ、その言葉を受け取った。 「殿下、商会の代表についてお願いがあります」「ゴードンさんから聞きました。昨夜、連絡をいただいた」「はい。正式にエリナ・アッシュフォードの名で商会を持てるよう、陛下にご確認いただけますか?」「すでに父上に話しました。年齢の問題は、特例として認めていただける方向です。正式な書類は、来週中に届きます」「ありがとうございます」「アッシュフォード商会の代表が、アッシュフォードの名前になる。当然のことですから」 王宮の外で、師匠とレインが待っていた。 師匠がエリナに言った。 「一つだけ言っておく」「はい」「今日の発言で、一番良かった部分を教えてもいいか?」「ぜひ」「クロヴェルへの返答だ」 師匠が静かに言った。「感情で返さなかった。でも、感情がないふりもしなかった」 エリナはフィオナが昨日言っていた言葉を思い出した。 「感情がないふりもしなくていい、という言葉を、昨日フィオナからもらいました」「賢い子だ、フィオナ殿は。あの返答には、あなたがいた。数字だけではなかった」「届きましたか?」「届いた。俺には届いた。他の人間にも届いたと思う」 師匠が一歩退いた。 「俺はこれで失礼する。よくやった」「先生、ありがとうございました。一年間、本当に」「礼
謁見の日の朝、エリナは四時間ほど眠った。 眠れると思っていなかったが、眠れた。 目が覚めた時、空はまだ暗かった。でも、もう眠れなかった。 起きて、顔を洗って、薬草茶を作った。 ルナが持たせてくれた葉を使った。 温かい湯呑みを両手で持って、部屋の窓から外を見た。 王都の夜明け前。 ルシェムとは違う空の色だった。でも、夜明け前が静かなのは、どこでも同じだった。 今日、謁見の間に立つ。 もう一度、確認した。 怖い。でも、届けたい。 それだけでいい。 朝食を三人で食べた。 フィオナが、珍しく静かだった。 いつもは何か言う人だが、今朝は食べながらあまり口を開かなかった。 エリナが「どうかしましたか?」と聞くと、フィオナが少し笑った。 「緊張してる」「フィオナが?」「私も人間だから。あなたが緊張するより、私が緊張してる気がする」「なぜですか?」「あなたが上手くいくかどうかを、見ている立場だから。自分が話すより、大事な人が話すのを見ている方が、緊張する」 エリナは少しだけ、その言葉を受け取った。 大事な人が話すのを見ている方が、緊張する。 「フィオナ」「何?」「今日、謁見の間に入れますか?」「入れない。謁見の場に入れるのは、名前がある人間だけ。私には、今は資格がない」「そうでしたか」「廊下で待ってる。終わったら、すぐ出てくるでしょう。その顔を見る」「どんな顔をしていると思いますか?」「わからない。でも、見たい顔をしていると思う」 謁見の前の十分間は、王宮の廊下の一角で過ごした。 フィオナ、ゴードン、エリナの三人。 廊下は石造りで、冷たかった。外の空気が、石を通して伝わってくる。 エリナは上着の内ポケットに手を当てた。 手紙が、ある。 フィオナが言った。 「今日の目標を、一つだけ確







